優しい胸に抱かれて


暇はないと言っておいてぷんすか怒りながら、目元を緩ませた島野さんと興味なさそうな日下さんは作業場から出て行った。

煮詰まってくると、ちょくちょく息抜きと言っていなくなる。一服にしては長い時間だったりするから、何処で息抜きとやらをしているのかは知らなかった。島野さんに聞いても[建築士の花園]だ。としか教えてくれなかった。

残った彼は私の隣、不在の平っちの席に座り、人形で遊び始めた。島野さんに馬鹿にされていた自分の人形に何かを持たせている。そして、もう一つの人形を手に取った。

『これ、柏木だろ?』

『はい、そうですけど…?』

肩くらいのヘアースタイルはボブカットのつもりだった。私の人形も特徴のない顔をしていた。何をしているのだろうと、じっとその指先を見つめていた。

『誕生日プレゼント』

『え…?』

彼はそう言って、自分の特徴のない人形に持たせたものを、私の特徴のない人形へ渡した。

視線を上に持っていくと目尻に皺を作り、瞳に孤を描いた特徴のない人形と、同じ顔をした彼の顔があった。

『な、何で、知ってるんですか…?』

『免許証見たから』

『へ?』

免許証ってことは、運転の練習をしたあの時だ。薄暗がりの中で、免許証の印字を読み取れていたなんて思っていなかった私は、おかしな声を出した。

私の真似をして『へ?』って、笑った彼は髪の毛をくしゃくしゃにいじって『大したもんじゃないけどさ。多分、柏木にはこれがピッタリだと思ってさ』と、それだけ言って島野さんたちの後を追った。