優しい胸に抱かれて

「柏木、契約書出来てるか? 夕方には戻れるかどうか…」

「はい、これです。あっ、島野さん。プラージュに連絡取ったら飯塚さんが日下さんに13時に来て欲しいってことでしたよ」

「日下、13時でいいか? 勉強のため新見を連れてってくれ」

「了解」

「柏木は確か15時からだったな、頼んだぞ。今日の天気は?」

「今日は終日晴れです」

「よし、じゃあ行ってくる」

「はい、気を付けて」

 島野さんは私の返事を待たずに、サンダルを脱ぎ捨て慌ただしく出掛けていった。

 丹野さんが私の席にやってくる。数日前から、任せていた仕事が出来上がったようで、緊張してるのか固い表情をしていた。

「…柏木係長出来ました。これで、…どうでしょうか?」

「どれ?」

 書類一式受け取り、ちらりと彼女に目を向けると、胸の前で手を合わせて、祈るような仕草をしていた。

「ははっ、緊張し過ぎでしょ。チェックするのに時間くれる?」

「…はいっ」

 席に戻った彼女の心配そうな視線がこちらに向けられる。それは、過去の大切な時間を過ごした私と重なった。

 
 確認を終えて丹野さんに書類を返す。

「ミスはなかったよ、よく出来てる。あとはここ、数量変更になってるから直しといてね」

 強ばる彼女の肩に手を置いて安心させる。いつも助けてもらってばかりだった私が、手助けする側に回っていた。
 
「はい! ありがとうございます。よかったー」

「安心するのはまだ早い、この案件は来週中には決めたいの。それと、昼からクライアントのところ付き合って貰うから」

「ええ! 私がですか?」

「もちろん」

「で、でも! 初めてですよ…?」

 焦って、立ち上がる丹野さんは私の腕を思い切り掴んで、慌てふためいている。その震える腕を上からしっかりと掴み力を込める。