優しい胸に抱かれて

「では、他に貰っていないものはないですか?」

「さあな。忘れようとするあまり、帰ってくることまで考えていなかった浅はかな奴に渡すものがあったかどうか…」

 小首を傾げ引き出しの中を漁り始める。見え透いた行動がわざとらしい。それらわざとらしい行動すら作為的なものだった。


 口角を上げ「昨晩のドライブは楽しかったか?」って。[昨日と同じ]と言わなかった部長は、本当に言いたかったことを言葉にした。

「おかげでちっとも楽しくなかったです」

「昔の男と6時間以上も一緒にいて、か?」

 また言い返せないような言葉を突きつけてくる。[昔の男]だからだというのに。

「これであいつに対しての免疫が出来ただろ。それとも、覚悟するにはまだ時間が足りないか?」 
 
「…十分です」

 それ以外の答えが見つけられなかった。足りないと言えば、次は何を仕掛けてくるかわからなかった。


「ところで、…お前は今、誰の背中を追い掛けているんだろうな? 誰に自分の背中を見せているんだろうな?」

「…失礼します」

 固唾を呑んだのを悟られまいと、早いところ部長室を後にする。でも、きっと気づいてるからそれを口にしたのだろう。


 私は今、誰の背中も追いかけていないから。
 
 帰ってくることまで考えなかったわけじゃない。想像してみてもイメージが沸かなかったから。無視されるか、部下として接してくれるかならまだマシだった。いや、上司としての厳しさを含んではいた。それにしてもだ。

 昨日の彼の言動は、予想外。想定範囲外過ぎて、どうしていいかわからない。