優しい胸に抱かれて

 平っちが喜びそうな量のおやつを袋から一つ取り出して、パッケージを開けると、日下さんが不機嫌そうな顔をしてやってくる。

「ニヤニヤして気持ち悪ぃな。何、1人で食べようとしてんだよ、朝飯食い損ねたから俺にもよこせ」

「え? 私にくれたんじゃないんですか?」

「はぁ? 普通、日下さんも食べます? って聞くのが礼儀だろ。全部食う気か? 太るぞ」

 手にしたチョコの包み紙を揺らして、喋りながら私の前に差し出す真似をして見せる。

「え? すごい理不尽ですよ、それ」

「だから単細胞って言われるんだよ」

 誰に言われるのだろうと、意味が繋がらなくて私は怪訝そうに見上げた。

 私のことを単細胞って言うのは日下さんだけだった。


「ほら二人とも、朝礼始まるぞ!」

 あれから熱気が冷めた様子の島野さんの声に立ち上がるも、私と日下さんは睨み合ったまま、フロアの真ん中へ足を運ぶ。

「やっぱり今のは納得行きません」

「何がだ? 単細胞って言われたことか?」

「それもありますけど、さっきのはおかしいです」

「おかしい? 何、言ってんだ? チョコレートはお菓子だ」

「え…、言い間違えてませんけど」

「単細胞だろ、チョコ一つで笑ったり怒ったり」

「それは…」


「うるさいぞ! 日下、柏木!」

 日下さんが似合わないことするから、それに、チョコレート苦手じゃないですか。と言おうとした時、部長の怒鳴り声に私は続きの言葉を遮断させられた。

「お前のせいで俺まで怒られたじゃねぇか」

「だからそれは日下さんが…」

「うるさいって言ってるだろ」

 今度は目を剥いているから、また続きを飲み込んだ。

「…きちんと笑えるんじゃねぇかよ。お前はへらへらとだらしなくしてるのがお似合いだ」

 前を見据えて、無表情でいる日下さんの横顔を私は困ったように見つめていた。

 メモ帳を見なくても、頭が覚えている。日下さんは、コーヒーはブラックしか飲まない、甘い物も食べない。


 日下さんが悪い訳じゃない。面倒くさがりの日下さんは自分で言っておいて、自分で根に持ってしまってるから、気にしているらしかった。私はどう処理をすべきかわからなかった。笑えば、気にしないでいてくれるのだろうか。