優しい胸に抱かれて

 そんな島野さんはどうだってよくて、深夜ってことは私を降ろした後なのだろう。本当にそんなことを彼が島野さんに向かって言ったのだろうか。

 私に注意しただけじゃ飽き足らず、島野さんへふっかけたのだとして、それは無駄な気がする。

 いつも何かと戦っている島野さんは乗り易い性格で、どうみても何かになりきって楽しんでいるようにしか見えない。


「注意したって、自分の意志でアホみたいに仕事してる奴の管理なんか出来るかっ。相手は、物わかりの悪い鈍い奴だぞ」

 自分のことを言われているのに、正論だと思った。鈍い奴ってところ以外は。

「…別にお前が悪い訳じゃねぇよ。俺らが、何日も帰らないことなんかしょっちゅうじゃねぇか。…要するに、二課長になるっていうのに、一課の部下に説教されたからムカついてるだけだ。あいつの自己満足じゃねぇか、だけど…。あいつを怒らすとこうなるってことだ」

 それまで黙って突っ立っていた日下さんはそう言うと、フロアの扉の奥へと姿を消した。その台詞を言う為だけにいたようだった。



「こうなる」とは、つまり面倒な事になるってことなのだろう。ただでさえ面倒臭がりな日下さんは、仕事以外の煩雑なことに巻き込まれるのが嫌いなところは、変わっていないように見える。

 
 そして、彼が怒りを見せるって事は、隠す必要がなくなったから。

『だから、大変だった隠すの』そう言われたことを思い出す。