勝士さんのお宅は、大きな洋館だった。
すっごーい。
これはもう、お城でしょう…
車をガレージに止めると、玄関の扉が開き、優里さんが迎えに出てくれた。
「遥さん、いらっしゃい?」
「今日はお招き頂きまして、有り難うございます。」と、ご挨拶する。
「さぁどうぞ、御義父様達もいらしてるわ?」
リビングに入り、ご挨拶をしようと思ったら…
「遥ちゃーん、久しぶり会いたかったよ?」と竜仁さんのお父様が抱きついて来た。
イヤイヤ、昨日お会いしましたよね? ツッコミを入れたくなるのを抑え、苦笑する。
すると、稔くんが駆け寄り、お父様を私から引き離す。
「ひろ君、ダメだよ!? 僕の遥ちゃんなんだから!!!」
「稔のケチ!」とお父様は拗ねてしまった。
ええ??
「おいコラ! 遥は俺のだからな!?」
お父様たら、稔君にらひろ君って、呼ばせてるんだ? アハハ…
稔くんとお父様の会話に、竜仁さんまでむきになってるから笑えちゃう。
「あらあら遥さんは人気者ね?」と優里さんが微笑む。
勝士さんも微笑んで、「遥さんいらっしゃい。この三人はよく似てるからね? 遥さんも大変だよ?」と笑う。
「稔、誕生日おめでとう!」と声がかかり振り返ると、リビングの入り口にイケメンが立っていた。
「郁人にぃちゃんいらっしゃい!」
郁人? 郁人!「キャー!郁人だー!!」嬉しさのあまり、思わず声をあげていた。
「誰?」郁斗は怪訝そうに私を見る?
「遥ちゃんだよ!」
「遥ちゃん?」
郁人の質問に稔くんが答えると竜仁さんが補足する。
「遥、郁人は優里の従弟だ。郁人、俺の婚約者だから手出すなよ!?」
竜仁さんは、私の肩に腕を回し、引き寄せ耳元で囁く。
「遥、俺だけを見とけよ!?」
あーテレビ見てた時、変だったのは、郁人にヤキモチ焼いてたんだ。
「たっちゃん結婚するの? 結婚なんてしない! って言ってたのに? へぇー、たっちゃんをここまで変えた遥ちゃんに興味あるなぁ。 ねぇ、遥ちゃん、一度デートしない?」
「郁人にぃちゃん、ダメだよ! 僕がプレゼントの代わりに、遥ちゃんを連れて来てって頼んだんだからねぇ!!」
「稔、6歳の誕生日に女をプレゼントしろって、ませすぎだろ? かっちゃんどんな教育してるの?」
郁斗が驚いてみせると、皆が爆笑していた。
緊張していた私も、いつの間にか緊張はほぐれていた。
「郁人! 馬鹿な事言わないでよ?」と、言いながら、優里さんが料理を運んで来た。
「優里さん、お手伝いします。」
「ありがとう。キッチンのテーブルの料理を運んでくれるかしら?」
キッチンに入ると大きなテーブルの上には沢山のお料理が置かれていた。
「すごーい。これみんな優里さんが作ったんですか?」
「優里ちゃんは、お料理教室の先生なのよ?」とお母様が教えてくれた。
「私…作るのは嫌いじゃないですけど… これを見たら自信ないです。」
と肩を落とす。
「私なんてねぇ? 結婚した頃は、卵焼きに砂糖とお塩を間違えたり、すごーく辛い時やすごーく甘くて、食べれなくて、ひろ君に『君は食事は作らないほうが良いよ?』って言われて、今では食べる方専門よ? ウフフ」と笑ってお料理を運んで行った。
本当かな?
私を慰めるために大袈裟に言ったんだよね? 多分
「遥さん、御義父様も御義母様も、ちょっと変わってるけど、良い人よ? 仲良くしてあげてね?」
「はい、ホント仲の良い、ご夫婦ですよね?」
「本当にそうね? さぁ始めましょう?」
料理を運び終わり、お父様の乾杯の合図で稔君の誕生日パティーは始まった。
「稔、お誕生日おめでとう!」
皆がプレゼントを渡し始めた時、忘れ物に気が付いた。
「西園寺さん!」
「はい?」竜仁さんではなく、勝士さんが返事をした。
「あっごめんなさい。 勝士さんじゃなくて… あの… たつ、じさん。」
私が言いづらそうにしていると、郁人が気がついた。
「あれ? 遥ちゃん、たっちゃんの事、まだ西園寺さんって、呼んでるの?」
「そうなんだよ! 勝士は勝士さんで、郁人は郁人、俺は西園寺さんって酷くない?」
「たっちゃん、ひょっとして、エッチの時も西園寺さんなの?」
「えーと確か、イク時は… 竜仁って、呼んでたかな?」
竜仁さんと、郁人のとんでもない会話を始めたから、私は驚きと恥ずかしさで泣きたくなって、俯いてしまった。
「郁人! たっちゃん!! あなた達は、なんて話を!? ここへ座りなさい!!」
優里さんは、仁王立ちして、床を指さした。
竜仁さんと郁人は、優里さんの言うがまま、床に正座をする。
「郁人、たっちゃん! 子供の前でなんて話をしてるの!? 遥さんを見なさい! 可哀想に… あなた達は、デリカシーがなさすぎ!!」
「優里、ごめん!」
「優里、ごめんなさい。」
二人とも小さな子供のように、シュンと小さくなっていた。
「私じゃないでしょう!? 遥さんに謝りなさい!」
「はい… 遥ごめんな?」
「遥ちゃん、ごめんなさい。」
本当に反省しているようで、ちょっと可愛いと思ってしまう。
優里さんは、悪巧みを考えたのか、私を見てニヤと笑う。
え?
なに?
なんだか、優里さんが怖い…。
「遥さん? たっちゃんとの事、考え直したほうが良いんじゃないかしら?」と、私にウィンクをした。
あぁそういう事か? と思い、私も悪巧みに乗る事にした。
「はい… よく考えてみます。…グスン」と、鼻をすするマネをして、顔を掌で覆う。
すると竜仁さんは、慌てて私の側に寄って来た。
「遥ごめん、本当にごめん。 考えるなんて言うなよ?」と懇願する。
「たっちゃんのバカ! 遥ちゃん、泣かないで…。」
稔君が心配してくれて、いたたまれなくなってしまった。
「稔君、心配しないで? 嘘泣きなの。 心配かけてごめんね?」
「遥、驚かせるなよ? マジビビったし…。 でも遥、本当にごめんな?」と、言って、竜仁さんは、私を抱き寄せ、私の肩に頭を落とすと、「ごめん… 愛してる。」と耳元で囁いた。
「うん、私も。」
心細そうな彼を愛おしい。
私は貴方の側にずっと居るからね?
「あー良かった。 俺もマジやばいと思ったよ? 遥ちゃんやるねー!」
郁斗は、ウィンクして親指を立てた。
「郁人! 反省してるの? あなたはいつも…」優里さんは再び、郁人に雷を落としていた。
「たつ…じさん…」
「遥ちゃん、たっちゃんだよ?」
恥ずかしくて、モジモジしていると、稔君に言われ結局…
「たっちゃん… 車の後部座席に、プレゼント忘れて来てしまって…。」
「プレゼントはこれだろ?」と一緒に買ったスケッチブックを掲げて見せる。
「もう一つあるの。」
「分かった。 見て来るよ?」と、車まで取りに行ってくれた。
戻ってくると「これか?」と、紙袋を渡してくれた。
「有難う。」
紙袋を受け取ると、腰を屈めて、稔君に差し出す。
「稔君、お誕生日おめでとう!」
稔君は「有難う」と受け取り、すぐに包装をあけると「うわぁー忍者丸のレインボー手裏剣だ!」と、大喜びしてくれる。
「稔君これね? 来週の月曜日にしかお店に出ないの。それまでお友達には、内緒にしてくれる?」
「うん! 分かったありがとう! 遥ちゃん大好き!」稔君は、チュッっと私の唇にキスをした。
私は目を丸くして、顔を赤くする。
「コラ稔! 俺の遥にキスするな!」
「べーだ! たっちゃん、さっき遥ちゃんいじめたから、僕のだもん!」
稔君は、舌を出して、竜仁さんをからかってるみたいだった。
「竜仁の負けだな?」と勝士さんに肩を叩かれ、肩を落とし、項垂れる竜仁さんをみんなが笑う。
楽しい時間も終わり、お父様達は「お先に失礼するよ?」と、帰って行かれた。
私達もと、席を立つと、勝士さんに少し話がしたいと言われ、座り直したところへ、優里さんが紅茶を淹れて来てくれた。
カップを口に運ぶと、アップルティーの甘い香りがする。
勝士さんは姿勢を正すと、「竜仁すまない。」と頭を下げた。
「なんだよいきなり? 勝士、頭上げろよ?」
「親父から、竜仁が会社を引き受けてくれたと聞いた有難う。
本当は俺が継ぐ事になっていたのに、今になって、ホントすまないと思ってる。
会社を継ぐ事は大変な事だ、側に支えてくれる人が居ないとやっていけないと思う。
だから、遥さんが竜仁を支えてくれるなら大丈夫だと思ったんだ。
それで親父に、わがままを言わせてもらった。」
「いや、俺は今まで、勝士に会社の事を押し付けて甘えていたと思う。
どこかで長男だしってな…? 双子なんだから、長男も次男もないのに…
勝士は、俺から見てもしっかりしてるから、勝士に任せておけば大丈夫だと思っていたよ。
正直会社なんて要らないと、思ってたからな?
遥かに出会えた今なら、誰かを守りたいって思う、勝士の気持ち分かるよ?
俺に務まるかわからないけど、遥が側に居てくれるから、頑張ってみるよ?
だから勝士は、小野寺グループを、優里達を、守ってくれ?」
「有難う竜仁、遥さん竜仁をよろしくお願いします。」と勝士さんは頭を下げた。
その時、勝士さんの目から、光る物が、ひと雫落ちたように見えた。
「たっちゃん… 有難う…。 遥さん、たっちゃんをよろしくお願いします。」と、優里さんは、涙を流して頭を下げた。
「勝士、1つ頼みがある。 俺、ホテルを出ようと思う。 家を探してくれないか?」
後で聞いた話だと、優里さんの実家、小野寺グループ会社は、設計建築、不動産、輸入家具を扱っているそうだ。
「急ぐのか?」
「あー早いほうがいいな?」
「まさか、もう出来たのか?」
勝士さんは驚いたように聞く。
「まさか、昨日やっと遥を…」
竜仁さんが、言いかけたところを、私が突いって止めさせた。
「いや違うんだ、色々不便でさ? 遥が泊まった時、着換えを洗濯できなくて不便なんだよ? 俺は、ホテルのクリーニングに出せば良いって言ってるんだけど、下着なんかは嫌らしくてさ?」
「当たり前だ!」と、勝士さんは呆れている。
優里さんは、「バカ!」と、言って、席を離れたかと思うと、すぐに戻って来て、稔君と遊んで居た郁人に、「郁人良い?」と聞く。
郁人は私達の話を聞いていたのか、優里さんの聞きたい事が分かった様だ。
「俺、今の部屋、気に入ってるから、引っ越すつもり無いし、使っていいよ?」と返事が帰ってきた。
すると優里さんは机にカードキーを置いた。
「名古屋駅の裏に、先月建ったばかりのマンションの1部屋を、父が郁人に用意してるの。
4LDKだから狭くないと思うわ?
そこを使ってちょうだい? そこならホテルにも近いし、遥さんも便利でしょ?」
「郁人良いのか?」と竜仁さんが聞く。
「あー良いよ? 遥ちゃんと1回デートさせてくれるなら?」
「じゃーいらない!!」と竜仁さんは即答する。
「アハハ冗談だよ! かっちゃんが、小野寺グループを継ぐ事になったのは、俺のワガママでもあるし使ってよ?」
郁人がそう言ってくれたので、竜仁さんが使わせてもらう事になった。

