冷菓子とお抹茶が出された時、襖が開き姿を見せたのは竜仁さんだった。

竜仁さんは一歩部屋に入り、正座をすると「大変遅くなって申し訳ありません。」と頭を下げた。

伊月のおじさんが「仕事なら仕方ありませんよ?」と竜仁さんを席に座るようにすすめ、改めてお見合いが進められた。

竜仁さんはフランスの大学に留学し、卒業後、フランスでホテル経営を勉強して、2年前に日本に帰国後、このクレラントホテルNAGOYAの支配人を務めているそうだ。

兄の勝士さんは、西園寺ホールディングスの専務取締役を務めていると、勝士さんが話してくれるのを私達3人は、唖然と聞いているだけだった。

勝士さんの話が終わってしばらくの沈黙の後、我に返った伊月のおじさんが口を開く。

「あの…こちらのクレラントホテルも、確か西園寺ホールディングスのグループ会社では?」

西園寺ホールディングスは、旅行会社、ブライダル会社、そしてクレラントホテルは国内外に8ヶ所あるセレブ御用達のホテルだ。

「はい。ゆくゆくはホテルの全てを竜仁に任せると会長も考えております。」

会長とは勝士さんと竜仁さんのお祖父様らしい。

私はとんでもない人と、お見合いをしている様だ。

なぜこんなに凄い人と私がお見合いになったのか知りたくても驚きで、言葉が何も出て来ない。

竜仁さんは固まっている私に微笑む。

「遥さんはどうして、僕とお見合いしてるのか?お聞きになりたいのですよね?」

私はあまりの驚きで、言葉に出来ず、ただ、首を上下した。

「僕は貴方に一目惚れをしたんです。」

「わ、私に…?」

「はい。それで、毎月大学時代のお友達とのお食事会を、当ホテルをご利用頂いている伊月様のご主人が、遥さんの上司と知り、貴女を紹介していただけないかとお願いしました。」

え?
瞳さんを見れば

瞳さんは微笑んで頷いてくれる。


「どうでしょ? お付き合いして頂けないでしょうか?」

「えーと…あの…」

「固く考えずに、まずは僕を知るところから初めて頂けないでしゃうか? お願いします。」と頭を下げられた。

どうしたら良いかと困っていると、伊月のおじさんが私に言う。

「遥、ここまでおしゃってくれてるんだ、少しお付き合いをして、お互いを知ってみてから、本当にお付き合いをするか、正式な返事を出したらどうだ?」

「じゃお試し期間って事ね?」と瞳さんも言う。

瞳さんのお試しと言う言葉に、私も気持ちが楽になって頷いた。

私が頷いたのを見て、竜仁さんはホッと息を漏らして微笑んだ。