あからさまに歪んだ母さんの表情と、変わらないように見えて苦い顔をしている父さん。
そういう反応をされることは分かっていた。
だから俺は気にせずに続きの言葉を紡ぎ出す。
「臨床心理士になる。俺は、助けたいから」
「どうして」
間髪入れずに問いかけた、いやこれはそんな生ぬるいものじゃないか。
声音は明らかに詰問口調。泣きそうな母さんの顔をそっと見遣った。
「それは柚都がやらなきゃいけないわけじゃないでしょ? どうして柚都がやるの? 別に自分からそんな世界に飛び込むことないよ。もっと他にやりたいことないの?」
「母さん」
言い募る母さんを、静かに呼んだ。
口を噤んだ母さんが何か言葉を発しようとして、諦めてまた口を閉じる。
反対なのは分かっていた。
それは、自分でもちゃんと理解していた。だから今までずっと黙ってたし、今言わなきゃって思ってた。
でも、ここまで言われると挫けそうになる。
分かってもらえなくてもいいやって、思ってしまいそうになる。
それは、きっとだめだ。
妥協してはいけないライン。ここまで黙ってきたのだから、甘んじて受けなければならない。
二人の反対だって、俺のためだってことは分かってるから。
だからこそ、何も言えなくなってしまうのだけれど。
「確かに俺がやらなきゃいけないわけじゃないよ。臨床心理士って心理系の資格の中でも最難関だし。別に民間の心理カウンセラーの資格で働いてる人だってたくさんいる」
「そうじゃないでしょう、」
「分かってるよ母さんの言いたいことは。だから言ったじゃん、臨床心理士じゃなくてもそういう仕事をしてる人はいるって」
「だったらわざわざ柚都がならなくても」
「俺がならなかったら一人減る」
助けられる人は、もっと減るかもしれない。
俺が、誰かを助けられたらの話だけど。
「そ、んな……別にいいじゃない、一人くらいっ」
「俺はやだ」
「どうしてなの、どうしてそこまでしてその仕事がいいの……?」
ぱたり、とテーブルに母さんの涙が一粒落ちた。
分かってる。母さんの気持ちは分かる。
俺に無理をしてほしくないから。
昔あったことを全部なかったことにして、思い出すことなんてなく、普通に生活していってほしいって。
分かってる。
でも、納得できない。
普通って、なんだ。普通じゃないってなんだ。
それが分からない。俺には普通、が、どうしても分からない。


