「父さん、母さん、話があるんだけど」


高三、春。


ずっと言い出すことができなかった。言ったらきっと、反対されると思った。


でももう高校も三年生。受験生だ。


いつまでも逃げて、結論を先延ばしにしている場合でもなくなってきていた。


三者面談は、夏。その面談で、ちゃんと先生に気後れすることなく第一志望を言いたいと思っていた。


一年の時の面談も二年の時の面談も、まだ決めていないと言って乗り切っていた。


自分の胸の中にだけ秘めて、親には言わずにいくつかの大学のオープンキャンパスにも参加した。ちゃんと資料を集めて、どこを突かれても説明ができるように。


そこまでするか、と友達には言われた。


周りは親と一緒じゃないまでも、どこの大学のどの学部を見に行ってくる、くらいは話しているらしい。


でもそれじゃだめだ。まずきっと、親に言ったら行かせてもらえない。


その友達には曖昧に笑ってごまかして済ませた。


理由を言うつもりは、全くない。


分かってもらえるものではないから。それを俺はちゃんと知っている。


だから、簡単に誰かに自分のことなんて話さない。


楽しければいい。楽しくて、楽で、笑っていられればそれだけでいい。


居場所を作るというのは、存外簡単だ。


でもずっと探してる。


────自分の、本当の居場所。


それ、になりたいと思ったのは、その職業の存在を知ったその日から。


その職業の存在を知ったのは、中学二年の秋だ。


総合の時間だったか、何の授業だったかは忘れたが、とにかく様々な職業を調べるという授業があったことだけは覚えている。


そこで俺は、その職業を────『臨床心理士』という職業を、見つけた。


見つけた瞬間これだと思った。


これなら、助けられる。探せる。見つけられる。


それ以来、俺はずっと臨床心理士を目指している。


親に言ったら、反対されることを分かっていて。それでも諦めずにはいられない。


だから、


「俺、心理学部に行くよ」


テーブルの向かいに二人が隣同士に座るその父親の前に座って、俺は凛とした声で宣言した。