◆side:心音


九月。学校が始まってから数日が経って、漸く授業にも慣れてきた今日この頃。


「あ、心音ちゃん!」


さっちーと昼ご飯を食べながら話していると、教室の入り口にここ数日で見慣れた影が現れた。


「あれ、心奈先輩」

「こんにちはー」

「さっちーちゃんこんにちは。心音ちゃん借りてもいい?」

「いいですよー」

「私の意思は無視か」

「え、だって行くでしょ」


行きますけども。


さっちーに見送られながら席を立って心奈先輩のところへ。廊下に出ると、他のクラスのざわついた声も聞こえる。


彼女がわざわざここまで来るのは初めてだ。だいたい放課後に部室前で会うことが多かったから。そのせいでさっちーも心奈先輩のことを知っているわけだけど。


どうしたんですか、と問いかけると少し言葉を探すように唸った先輩から視線を外して、壁にとんっと背中をつけて寄りかかった。


「なんというか、あたしもそろそろ家に戻るからさ。その前に一回来ない? と思って」

「戻るって……大丈夫なんですか?」

「嗚呼うん、大丈夫。もうすっかり元気だし、星とユズが過保護なだけ。で、どう? 今週暇?」

「うーん……」


来ない、って、あれだよね。柚都さんと星さんの家。


あれから時々柚都さんから連絡が来る。何度か来ないかって誘われたけど、用事があるからっていつも断っていた。実際習字もあったし、家にいるといつもご飯の支度をしなきゃいけないし。嘘を吐いていたわけでもないけど、なんとなく心苦しく思っているところはあった。


「暇かどうか、といえば暇ではないんですけど」

「あー、習字だっけ? 習い事やってるんだったね」

「はい。模試は終わったからいいけど、先週行けなかったからその分行きたいし……」


行きたい、けど。断ってばかりだから、柚都さんの家にも行きたい。


だけど、何となくあの二人は苦手だ。先輩のことも。


だって三人とも、きっと私と同じだから。


同じ人って、だいたい分かってしまう。ふとした瞬間の言い回しとか、雰囲気とか。星さんはちょっとよく分からないところもあるけど、柚都さんは話しててそうだって思った。心奈先輩も。


同族嫌悪。きっとそれ。


ただ、心奈先輩はまた別だ。どちらかというと、先輩は私の中で守る側にいる。柚都さんも星さんも同じだとは思うけど、二人のことはよく知らない。それに、二人の弱い姿を見ていない。だから、これ以上交流することを躊躇ってしまう。