ここまで隠していた心奈を叱りたい気持ちと、気にかけてやれなかった自分を責める気持ちがせめぎ合って、結局何も言うことができない。
「……ちゃんと寝とけよ」
「や、……ねるまで」
「……ったく」
心奈を残して部屋を出ようとすると、きゅっとTシャツの袖を掴まれた。
こいつ、熱上がってんな。
珍しく甘える声を、無視することなんてできるわけがない。
その場に腰を下ろして、一度外した心奈の手をそっと繋ぐ。自分より高い体温は、確かにさっきより上がっているように思えてならない。
思わず顔を顰めた星を、見ていたのか。ごめんね、と謝った心奈の頭を、そっと撫でた。
「……なんで謝ってんの」
「あたし、」
「言わなくていいから。寝ろ、心奈」
な、と優しく言うと、こくりと頷いた心奈がゆるゆると瞼を閉じた。
すうすうと寝息が聞こえてきてから、余裕を持って五分。そっと繋いだ手を解いてからも、また五分。
心奈が起きないのを確認してから、俺は静かに部屋を出た。
ぱっと向けられた視線に、しーと人差し指を唇に当てる。どうやら昼飯は食べ終わったらしく、ゴミは捨ててあって机に出ているのは飲み物だけになっていた。
「田崎先輩、どうですか?」
「やっと寝たところ。今日は泊まらせるけど、柚都いいか?」
「全然。寧ろ俺いて大丈夫?」
「そこまで気にしなくていいし、脱走した時の人出が欲しいからいてくれ、頼む」
「はい了解」
これ昼ね、と渡されたビニール袋を広げながら、床に座り込んだ。適当に買ってきたのかおにぎりが三個。片浜さん、が横にずれてくれたのに気付いて、そういえばと思い出す。
自己紹介、してなかったな。
「アンタ片浜さん、だっけ」
「え、あ、はい」
「俺、上條星。心奈引き止めてくれてありがとな」
「いえ、先輩で、よくしてもらったし、放っておけなくて。……私、片浜心音です」
ちゃんと心奈も先輩してんだな、と片浜さんの言葉に安心する。人と関わってはいるんだ、と。しかも後輩とも、ちゃんと。
まあ俺の前では、というかあのメンツの前では素が出るけど、それ以外の前では基本的に普通の女の子だ。表面上には過ぎないが、ちゃんと演じられているということだろう。
少しくらい隙作ってくれたっていいんだけどな。それ考えたら、今回この片浜さんの前で倒れたのはある意味よかったのかもしれねえ。
心奈のセカイは、狭い。今まではそれでよくても、そうはいかなくなってくる。


