その案を否定しなかったのは、石田先生にも思うところがあったよう。
「三年目なんで。多分俺が一番ベテランだし、星は初めてだし」
「助かる」
「じゃあそうしようか」
もう何人かは高校生が入ってきていた。
星と席をトレードし、広げやすいように持ってきていた荷物を机の中に仕舞う。
準備万端。いつでも来い。
「じゃあ六番と七番どうぞー」
「待って、もう一人」
「え、じゃあ、……片浜さんね、八番でもいい? 先生がいないんだけど」
「あ、構わないです」
「じゃあ八番で。お願いしまーす」
ほら来た。
おいで、と手招きをして椅子を示した。お願いします、と片浜さんと呼ばれた子が軽く挨拶をして椅子に座る。
緊張した面持ちの片浜さんから用紙を受け取ると、さーっと紙面に目を走らせた。
「片浜、……みおん? あ、もしかして受付で会った?」
「あ、はい。そうです」
心の音で、みおん。
珍しい名前だったし音も字も綺麗だったから覚えてた。
「ここね、かみお、だと思ってたんだよね」
「よく言われます。あんまりみおん、って読んでくれる人いなくて。しんおん、っていう人もたまに」
「嗚呼、でもしんおん、は名前にはないよねえ」
「そうですよね」
ふふっと片浜さんが笑う。いい子だな、と思って、そういえば自分が名乗ってないことに気付いた。
「俺、渡部柚都。柚の都ね。これ」
言いながら、サンプルとして持ってきていた一年の時の第二外国語のファイルを見せる。授業の様子を訊かれることもあるから持ってきている。
「冬生まれなんですか?」
「え?」
「柚、だから。冬生まれなのかな、と」
「嗚呼、うん。冬至生まれ」
「やっぱり。……あの、これ見てもいいですか?」
いいよ、と頷くと片浜さんがファイルを手元に引っ張って興味深そうに開いた。
が、きゅっとすぐに良さった眉に思わず笑みを零す。高校生にはまだ難しいか。一年生みたいだし。
「……難しいですか?」
「まあ、レベルは上がるよ。大学は専門だから。英語だけじゃなくて第二も入ってくるし。それ、ドイツ語」
「ドイツ……」
顔を上げていた片浜さんがまた視線を落とす。
興味はあるけど難しい、という複雑な表情の片浜さんがそれでも必死にプリントの文字を追いかけていて。


