滝川沙菜と、楢原祐輔。
噂をすれば影が差すとはこのことか。
「あれ、確かえーっと、片岡さん?」
「そうそう。滝川さんだよね? あと楢原、くん?」
「沙菜ちゃんとゆーちゃんね。それでいいよ」
「いいけどおかんが言う?」
「おかんだから」
「便利だなその言葉」
今まで何度も繰り返しているやり取りを、懲りずにまた繰り返す。隣の詩月が吹き出した。
「ごちそーさま」
「おかん早っ」
「喋りながらちゃんと食ってるからな」
「まだ十分だけど!?」
「十分あればじゅーぶんっしょ! 五分でいける自信ある」
「お母さんは忙しいもんね」
「そうなんですうー」
家でも結構ご飯作ったり片づけを任されたりというのは多いから、早く食べるのには慣れている。早く食べないと逆に片づけを任されるから、というのもある。
背中のドアを開けて、手近にあった自分のリュックを引っ張る。その中に弁当箱を仕舞うと、今度は筆箱を取り出した。
さっきの時間に書いていた小説を未送信メールに打ち込むためだ。
「相変わらず字ーちっさいよねー」
「うわあ。うわあ」
「おいまおーその反応は何だ」
「何でもー?」
「てか授業聞けよ」
「絵ー描いてるしーふに言われたくない」
ごもっとも、というように詩月が頷いた。ふいっと視線を逸らしたのはしーふ、だけでなく沙菜ちゃんとゆーちゃんも。この三人は絵描き組。
そして私と同じ物書きであるまおーはというと、こちらはてへぺろっと口に出して悪戯気に笑った。
文芸部はこんなものである。
さっちーは絵描きの分類になるが、春の新入生歓迎号と夏の文化祭号にはまだ投稿していない。
というか、春の新入生歓迎号に関しては投稿してる他の一年が間違ってるからね。
今年は発行日が遅れたせいで『新入生歓迎号・歓迎されちゃった号』に名前を変えて新入生も混ざって作ったから。
会話に参加しつつ、視線は手元のメモに合わせて入力していく。いつの間にか、未送信メールには小説が溜まってきていた。
本日の紙は五枚分。これでも少ない方だ。
普段の授業なんて、書こうとして書くと四十五分で二、三枚はいく。
「えー次ってどこだっけー」


