「そうだよ! 文化祭は寧ろ小説書く口実! クラスが忙しかろうと大義名分が手に入るんだから書かない手はないでしょ! のに、このタイミングでこの席とか……」
「どんまーい」
心の篭っていない励まし方にもうとふてくされてみると、また二人に笑われた。酷い。
授業中いつもしている私の内職が、小説を書くこと。B4の紙を切って切って切って切って切って、そこに細いボールペンで小さい字をびっしりと書いていく。
あまりにも小さすぎて読めない! とハナちゃんには放り出されたが、自分でも正直よくこんな小さい字が書けると思う。
しかもフリーハンドで真っ直ぐ書くというオプション付き。
ただのコピー用紙を切っているだけだから、線なんて入っている訳がない。
なのに、だ。
テストが終わったその翌日に行った席替え。くじ引きで決めたそれで私は運悪く一番前の席、厳密に言うと廊下側から二番目の列になった。
これが教卓の真ん前ならまだ隠せる。けど、この位置は一番教師が話しかけてくる場所だ。
「書けるとしたら世界史か……」
「書く気か」
「流石にメモは出せないからノートの欄外で。あの人ならバレてもごまかせる」
「おかんならできると思う」
「畠沢先生と仲良いもんね」
「まあ入学前から知ってるからね」
「そういえばそうだっけ」
去年……今年卒業したはとこに春休み会った時、弄りやすい若い男の先生がいると聞いていた。世界史の。
あとで畠沢先生に確認したらはとこのことを知っていたし、多分畠沢先生で間違いはない。社会科に畠沢先生以外で若い先生いないし。
「あーおかぁん?」
「おん? なしたさっちー」
「今日放課後文化祭で残るんだけど、」
「あーはいはい。付き合うよ付き合う」
「おかん好き!」
「分かったから! ほら森山呼んでる!」
「お母さん……」
「本当にお母さんだよねおかんって」
「言われ慣れたわ」
中一からだからかれこれ二年とちょっと。しかも高校に入ってからは寧ろ名前で呼ばれないのだからそりゃあ慣れる。
────その方が、いいんだけど。
私は、このあだ名が、好きだ。
「あーもう小説書きたい!」
「おかん本当好きだよねー」
「当たり前! 二人も小説読もうよー」
「書くのはどこ行ったの」
「だって書くのは書くから。色んな小説布教しようと思って」