「あたし、シャワー」

「俺はいらないよ」

「あたしが入るの」

「仕方ないな、待っててあげる」


焦らしプレイもいいよね、という顔にするりと拘束から抜け出して枕を投げつけた。


難なくそれを受け取ってベッドに投げた相手に、思わず舌打ちを漏らす。


それを聞いて、また楽しそうに笑われる。


嗚呼、何しても無駄だ。


「猫」

「あっそ」

「それしか言えなくなった?」

「うるさいよ」

「子供」


これ以上はあたしの精神力が削られるだけだ。


まだ何か言いたそうに唇の端を上げる相手を無視して、シャワーを浴びる。


鏡に映った自分の身体の痣を見て、思わず笑みがこみ上げてきた。


一番大きくて青い痣。その他にも至る所に治りかけの黄色が残る。


でも一番は、


「ココ」


バスローブを纏ったあたしを、容赦なく横抱きにしてベッドに放り投げた。


安いベッドに背中を打ちつけて、痛みが走った背中に眉を顰める。


大きな音を立ててスプリングが軋んだ。


相手がベッドの上に投げられたままのあたしの上に、馬乗りに乗っかってくる。


投げられた恨みを込めて睨みつけると、ご褒美だとでも言いたげに満面の笑みを湛えて唇を塞がれた。


ぎしぎしと鳴るスプリングがうるさい。


もっといいところにすればよかったのに、ケチったのか。


「いい?」

「駄目、って言ったら?」

「────まあするけど」

「じゃあ聞かないで」


また、唇を塞がれる。


────嫌いだ。


全部。全部嫌い。


世界も、相手も、両親も、────自分も。


だって、どれだけ祈っても、願っても。




────誰もあたしを、愛してくれない。