「おはよーおかん、詩月!」

「あ、ハナちゃんおはよー」

「おはよ、ハナ」


平日、午前八時半過ぎの朝。G組の教室はがやがやとして騒がしい。その中で聞こえてきた声を拾うと、私と詩月はぱっと顔を上げた。ハナちゃんだ。


さして遠くもない事績に荷物を置いたハナちゃんが来るのを待って、今度は三人で話を再開する。話題は先日終わったばかりの定期テストである。


「ねえハナー、あと返ってきてないのって数学だけ? だっけ?」

「だった、と思うけど……おかん今持ってないの?」

「持ってるよ当たり前じゃんか。待ってろ調べる」

「さっすがー!」


近くに置いてあったリュックを手繰り寄せてファイルを探る。確かテスト類はそれだけで纏めてあったはずで、────ファイルの色は青だったか。


「あ、あったこれだ」

「で、どう?」

「お前ら見んな覗くな点見える!」

「えーいいじゃん」

「って言ってアンタ達自分の点数教えてくれないでしょ! その手には乗らないからね!」

「バレたかー」


前に座る二人に見えないように目当ての教科を探していく。往生際悪く覗き込んで来ようとするハナちゃんは油断も隙もない。


私の席は一番前だから、丁度教壇で段になっているところに二人は座っている。その方が集まりやすいって理由で私の席に集まってるのは分かるんだけど、だからって変なことを目論まないでほしい。


「あーあったあった。うん、そうっぽいねー」

「そうって、数学だけってこと?」

「うん。まあ記述もあって採点大変だから遅れるってそもそも先生言ってたしね」

「先生方大変だなー」


そかそか、とハナちゃんが頷いて、私はさっさとファイルを仕舞った。


今日あたり、返却あってもおかしくないけど。テストからは一週間以上経ってるし、朝先生に会った時もそんなことを匂わされたし。


「早く返ってこないかね」

「うちはいいや。今回ダメだった」

「今回も何も今回が初めてだけど」

「他の教科ってもんがあるじゃーん!」


そうだけどね、と詩月が請け負う。まあねと返して、私はそういえば、ともう一度テストのファイルを引っ張り出した。