最初は充の言葉を拒んでいたエミだったが、翔が警察に捕まったことで、何かの糸が切れてしまったのだろう。

その時、初めて寄り縋ってきたエミを、充は強く抱き締めたのだ。


父に翔のことを頼んだのは、もしかしたらそこに罪悪感もあったからなのかもしれないけれど。




充とエミのことを知っても、誰も何も言わなかった。


翔でさえ、何も言わなかった。

エミには「幸せになれよ」と、充には「エミを頼むな」と、言っただけで、決して責めるような言葉はなかった。



翔があの頃、何を考え、どう思っていたのかは、今も充にはわからない。



エミがそのことをどう思ったのかだって、わからないままだ。

だが、充がエミに抱く感情は、いつの間にか同情から愛情に変わっていた。


たとえ、翔に返せと言われたって、死んでも返したくはない。


なのに、反面で、充はひどく恐れていた。

執着が過ぎるあまり、自分も母のようになってしまうのではないか、と。




真理や父の愛人が死んだと知って、狂ったように笑っていた母のように、自分もなってしまうのではないかと、思うからこそエミとの間に一線を引いている。




愛とは狂気だ。

大切にして磨くほどに尖っていき、最後にはそれで相手や自分や、まわりさえもを傷つけてしまう。


あの頃の翔とエミがいい例だ。


だから、充は、そうならないようにしたかった。

またエミの涙を見せられるくらいなら、自分が我慢していればいいだけなのだから。




エミの本心も、翔の本心も、聞こうとしたことすら一度もない。

あの頃の話は今やタブーのようになっていて、誰も触れようとはしないからだ。


3年経っても、それは変わることがないままで。