「悪ぃな。あいつら、見た目はあんなだけど、女に何かするようなやつらじゃねぇから」


っていうか、改めて近くでちゃんと見たら、ほんとにモテそうな顔立ちだ。

これなら女を取っ替え引っ替えしてるのもうなづける。



「おい、聞いてんのかよ」


はっとした。

翔は呆れたように肩をすくめ、



「お前さぁ、いっつもこの辺にいんじゃん? 今日は俺がいたからよかったようなものの、違うやつらだったらやばかったぞ」

「え?」


気付いてたの?

驚いて目を丸くするアユに、翔は怪訝そうに「何?」と眉根を寄せた。



「あ、えっと。何でもない」


私の存在を知っていた。

でも、だからどうしたということでもない。


しかし、翔はさらに眉根のシワを深くして、



「お前、それより、礼はねぇのかよ。助けてもらったんだから、ありがとうくらい言えや」

「あ、……ありがと」


ほとんど棒読みに近かった。

翔は諦めたのか、助けるんじゃなかったとでも言いたげな顔で、舌打ちを返してくる。



「まぁ、もういいけどさ。用がねぇならさっさと帰れよな」


めんどくさそうに言った翔は、そのまま人混みに消えてしまった。

遅れてアユもそちらへと目をやったが、もうその姿はどこにもなかった。


だから、まるでキツネにつままれたような出来事だった。