翔は充にとって、腹違いの弟だ。

父が愛人に生ませた隠し子とでも言えばいいか。


まぁ、だからどうしたということでもないのだけれど。



「兄貴さぁ。一日中、家でぐだぐだやってて、つまんなくねぇの? たまには外出ろよ」

「めんどくせぇ」

「出た! 兄貴の『めんどくせぇ』発言!」


なぜかケラケラと笑う翔。

充は少し不機嫌になったが、それを顔には出さないでおいた。



「そっちはどうなんだよ、最近」

「俺?」


途端に翔は目を輝かせる。

無邪気な少年みたいに、聞いてほしかったとでも言わんばかりの顔で、



「俺は今、仕事探し中」


『探し中』という程度で、どうしてそこまで胸を張って言えるのか。

つーか、だったらこんなところで酒飲んでんじゃねぇよ。


と、思ったけれど、翔が働く意欲を見せたこと自体、充の知る限りでは、多分初めてだろうから。



「どういう風の吹きまわしだ?」

「まぁ、色々あってね。俺ももう21だし、いつまでも親父の世話になってるわけにもいかねぇじゃん? だから、ちゃんと働いて、あのマンションも出ようかなぁ、とかさ」

「ふうん」


翔も翔なりに、少しは成長したのだろうなと、充は他人事のように思った。



真理が死んで4年。

『もう4年』なのか、『まだ4年』なのかはわからないが、4年という歳月は、決して短かったものではないように思う。


じゃあ、自分はどうなのかと問われると、充は答えに窮してしまうのだけれど。



「頑張れよ」


結局、充はそんな陳腐なことしか言えなかった。