諦めたアユは、不貞腐れたように口を尖らせ、椅子の背もたれに背を預けると、



「付き合おうみたいなこと言われた」


瞬間、ケイの目が輝いた。

ケイは、「それで?」、「それで?」と、さらに前のめりになる。



「でも、チャラいし、信用できない。悪いやつじゃないのはわかってるけどさぁ」

「………」

「いや、私だって別に、嫌いだとは思ってないよ。けど、裏切られて悲しい想いはしたくないし」


ケイは笑った。



「裏切られて悲しいと思っちゃうような相手なら、アユちゃんもうその人のこと好きってことじゃないの?」

「えっ」

「ほんとに好きじゃないならメールなんてしないしぃ? 私から見れば、その人とちゃんと付き合いたいって思ってるからこそ勇気が出せないみたいに見えるけどなぁ」


アユがずっと目を背けてきたことを、ケイはさらりと言葉にしてしまったのだ。

図星ではないとは言えなかった。


でも、康介とのことがあったばかりなのにと思うと、尻込みしてしまう。



ジュースをずるずると飲んだケイは、



「付き合ってみたら、案外、悩んでたことが馬鹿らしく思える時もあると思うよ。そんなもんっていうかさぁ」

「………」

「それに、アユちゃんには私がいるよ。その人がほんとに最低男だったら、私が殴ってあげるもーん」


筋肉なんて一切なさそうな手で、ケイは拳を作って笑った。


ほんとに、相変わらずな子だ。

アユも釣られたように笑ってしまった。



「ありがとね、ケイ。私、ちょっと元気出た」


ケイは強くうなづいた。