鼻筋の通った精悍な顔。

肉のない頬と、薄い唇。


いつもおしゃれに整えられている黒い短髪は、今はくしゃくしゃになっている。



「ちょっとお前、俺が寝るまでここにいろ」

「は?」


なのに、すっかり寝るつもりらしい翔は、そのまま目を閉じてしまった。



雨音より大きく響く、自分の鼓動。

うるさい、うるさい、うるさい。


無意味にも息を止めていたら、しばらくの後、翔は本当に寝息を立て始めた。



「ねぇ、ほんとに寝たの?」


返事はない。

そこでやっと、アユはほっと安堵する。


翔を起こさないように、そろりとベッドから抜け出ようとしたら、



「ひとりにすんなよ」


無意識なのか、翔はアユを引き寄せる。


抱き締められて、また鼓動がうるさくなる。

それでも相変わらず、翔は寝息を立てていて。



「真理……」


聞き取れないほど小さくかすれた声で呼ばれた、女の名前。



乾いた笑いが口から漏れた。


私、何でこんなやつと、こんなとこで、こんなことしてんだろう。

急にすべてのことが馬鹿らしく思えてきた。