日常は、すぐに戻ってきた。

だが、もう、ヨシキの心持ちは今までと違った。




まずは、真面目に仕事をするために、冴子との関係を解消した。



「今までありがとう」と頭を下げたヨシキに、冴子は「何だか寂しくなっちゃうわね」と、目の淵を赤くして言ってくれた。


利害関係の上にしか成り立っていないと思っていた冴子との関係も、結局はそこに人間同士の繋がりや交わりがあって、情や愛もあったのだ。

だから、今は冴子に対して、育ててくれた恩や感謝しかない。




テレビの仕事は、何となくでどうにかこなしている。



社長はそれに手ごたえを感じたのか、今度はドラマの端役を取ってきてくれた。


開始5分で殺されるホストの役らしいけれど。

少し前までは死ぬことを望んでいたはずの自分が、ドラマの中でとはいえ、殺されるというのは、何だかとてもおかしかった。




悠馬は撮影スタジオで会うと、相変わらずだ。



「よう、元気か? 次、ドラマで死体役だって?」

「ホスト役だよ」

「でも、殺されて死体になるんだろ? 似たようなもんじゃねぇか。まぁ、観るけど」

「犯人は店のオーナーだよ。台本に書いてあった」

「って、おい! 教えんなよ! サスペンスの意味ねぇだろ!」


ヨシキは思わず「あははっ」と声を立てて笑ってしまった。

笑いながら、自分の居場所はちゃんと、それぞれのところにあるのだと思え、それが安堵と共に、勇気になる。



「でも、悠馬の方が向いてると思うけどなぁ、殺される役」

「どうして」

「よく、浮気がばれて修羅場になってるでしょ。この前は包丁を持って追い掛けられたらしいじゃない。その経験を生かして、迫真の演技ができそうだし」

「何でそれ知ってんだよ。誰の情報だ? ほんと嫌味なやつだよ、よっしーは」


ヨシキはまた「あははっ」と声を立てて笑った。