汚いものでも見るような目で、手を振り払われた。

驚いたと同時に、少し悲しくなった。


「私に触らないで」と、母にも昔、言われたことがあったから。



「……ごめん」


謝罪の言葉が口をつく。

本当に、どうして追い掛けてしまったのだろうかと、今更思った。


美雨は肩で息をしている。



「大丈夫? ごめんね。俺の所為だよね」


今度は触れず、でも顔をうかがうように聞いた。

美雨の息はまだ荒いままで。



「どうしてあなたは……」


呟いた瞬間、美雨は膝から崩れた。



「わっ、ちょっ」


触るなと言われたことも忘れ、ヨシキは慌ててその体を支えた。


熱かった。

生きている人間のぬくもりだとかいう以前に、



「ねぇ、熱があるんじゃないの?」


美雨の手に持つコンビニの袋の中には、清涼飲料水や冷却シート、ゼリーなどが入っていた。

途端に、ヨシキは熱がある子を走らせてしまったという罪悪感に襲われる。



「ごめん。家どこ? 送るから。立てる?」

「やっ」

「いいから。遠くの親戚より近くの他人って言うし、困った時はお互い様でしょ」


美雨の体は、細すぎて、少し力を加えれば簡単に折れてしまいそうだった。

左の手首には何本ものリストカットの痕があったが、それは見ないふりをしておいた。