冴子は一週間ほど仕事で海外に行くらしい。

さすがのヨシキも他人の留守宅で生活はできないので、仕方がなく、自分の部屋に帰ることにした。


寝酒を調達するために、マンションの近くのコンビニに寄った時のこと。



「……あ」


コンビニから出てきた女の子と目が合った。


スタジオの廊下でぶつかった子だ。

確か、名前は美雨だったか。



目が合ったので、さすがに無視するわけにもいかず、



「この前はごめんね。あれから、大丈夫だった? どこも打ち身とかなってない?」


しかし、美雨は顔をうつむかせ、何も言わない。

これにはさすがのヨシキも困ってしまった。



「えっと。家はこの近く? 俺も近くなんだ。すごい偶然だね。こんなこともあるんだね」


なのに、美雨はやっぱり何も言わなくて。

これじゃあ、俺は、ひとりで喋ってるみたいじゃないか。


どうしたものかと思っていたら、



「すいません。失礼します」


美雨は頭を下げ、逃げるように歩を踏み出した。


俺、何かした?

他人に好かれたいなどとは一度として思ったことのないヨシキだが、自慢じゃないけど理由もなくこんなにあからさまに嫌われたことは今までなかった。



「ちょっと待って」


気付けば、追い掛けていた。

小走りに美雨の腕を掴んだのだが、



「触らないで!」