ファミレスを出て、携帯を開く。



【今、地元にいるよ。昔の仲間に会えて最高に楽しい。盛り上がりまくり!】



空の写真を添えて、嘘とほんとの混じるブログを更新した。


うちは弱小の芸能事務所で、だから社長は必死らしく、「人気を得るためには何だってしろ」と、口うるさい。

別に人気者になりたいわけではないのだけれど。



地元から逃げるための手段だった。

結果、自分を切り売りしている。


憎んでいるのに、この見た目が商売になるだなんて、因果なものだ。




携帯を閉じ、また駅に向かって歩いていると、「ヨシキさんですよね?」と声を掛けられ、足が止まった。

10代とおぼしき女の子が駆け寄ってくる。



「めちゃめちゃファンなんです! 会えるなんてすごい! さっき、この雑誌買ったばかりなんです! サインしてください!」


自分の顔が表紙にでかでかと写っている雑誌を向けられた。

ヨシキは「ありがとう」とほほ笑み、自分の顔をぐちゃぐちゃに潰すように、雑誌の表紙にサインをした。


気持ち悪すぎて、消えてしまえばいいと思ったから。


自分の顔は今も変わらず大嫌いだし、どうしてみんながこんな人間に黄色い声を上げているのかわからない。

それなのに、女の子は目を輝かせ、



「ヨシキさんは地元の星です! うちらの自慢ですよ! 私も大好きですもん! 応援してます! 頑張ってください!」


ヨシキは「ありがとう」とまたほほ笑んだ。



もう慣れ過ぎた笑顔。

昔、社長に「お前はただ笑っていればいい」と言われたが、本当にその通りだなと思う。


虚しさも何もかも、押し込めて、笑っていればその場がしのげるのだから。