静かに、つつましやかに、この幸せを永遠に享受したいと、ヨシキは思っていた。


しかし、成長するに従い、まわりはうるさく賑やかになっていく。

翔と楽しいことばかり繰り返しているうちに、よくも悪くも目立つ存在になってしまったのだ。



「あいつらは母子家庭だから」と、男の子たちから陰口を叩かれることもあったが、そういうのはすべて翔が蹴散らしていた。



母子家庭だからどうだということは、事実なのだから特に気にならなかった。

が、女の子たちから「かっこいいね」と言われることにだけは、抵抗があった。


翔は確かにかっこいいけど、俺は違う。


とにかく人より色素が薄くて、目なんて茶色だ。

日焼けもせず、背も高くて、自分のことが妖怪みたいで気持ち悪いと思っていた。



「そういえば、ハーフの男とヤッたなぁ。あんたもそれっぽい顔してるし、もしかしたらあいつの子なのかもね。ってことは、あんたクォーター?」


一度だけ、母が笑いながらそう言っていたけれど、真相は今もわからない。



とにかくそういうこともあり、人と自分との違いを見つけては、ヨシキは悩み、悲しくなった。


普通でいたかった。

翔みたいになりたいなどと贅沢は言わないから、せめて、その場に溶け込んでいられるような存在でいたかったのだ。




しかし、そんなヨシキの思いに反し、小学校高学年になると、バレンタインにたくさんのチョコをもらうようになった。



翔は「いらね」と突き返して女の子たちを泣かせたりもしていたが、ヨシキは断る勇気さえなく、そのすべてを受け取ってしまった。

まぁ、だからこそ、女の子たちを勘違いさせてしまっていたのだけれど。


もらったチョコは、全部真理にあげた。


真理は甘いものが好きなので、そういうのの処理を任せるには適任で、むしろもっとくれと催促された。

真理は大量のチョコを前に目を輝かせていた。



「お兄ちゃんなんてゼロなのに、やっぱよっちゃんはモッテモテだよねぇ。まぁ、そのおかげで、私こうやってチョコ食べられるんだけど」