学校の手続きなどの関係もあり、両親が籍を抜くのはケイが卒業してかららしい。


でも、この家から、父のものが綺麗になくなった。

物心つくより前から当たり前だった日常の風景は、今はもう、見る影もない。




小ざっぱりしてしまった、女だけの家。

今まで以上に増す、ひとりっきりの時間。


だからケイは、そのほとんどを受験勉強に費やした。


家族のことや、悠生のことは関係なしに、ケイには夢があり、それを叶えるために、希望の大学に合格したかったから。

今の私には静かな時間が多いのはちょうどいいと、ケイは自分に言い聞かせた。




そしてそれは、そんな中での出来事だった。



放課後、帰宅しようと靴箱に行った時のこと。

アユが、数人の女の子に囲まれている場面に遭遇し、ケイは思わず陰に隠れた。


気付かれないようにしながらも、覗き見る。



「あんた前から目ざわりだったんだよね」

「マジで何様? まさか自分のこと可愛いとでも思ってんの?」

「親友のカレシ寝取るとか、最低じゃん。ブスのくせに気持ち悪いっつーの」

「よく平気な顔して学校来れるよね。その神経、疑うわ」


あの噂の所為だと、瞬時に思った。

が、怖くてケイはその場でおろおろするだけ。


しかし、アユは女の子たちの言葉に動じることもなく、



「あんたらさぁ、悠生のことが好きなら、私を罵倒する前にやれることあるんじゃないの?」


と、言ってのけた。


女の子たちの顔が怒りと羞恥で紅潮する。

アユが「図星か」と鼻で笑うと、女の子たちは舌打ち混じりに「行こう」と言って、向こうに行ってしまった。



アユはその女の子たちの背中に向け、べーっと舌を出していた。