朝、学校に着くと、廊下の隅に悠生とアユの姿を見つけた。

駆け寄ろうとしたケイだったが、ふたりがあまりにも神妙な顔で何かを話していたので、思わず柱の陰から聞き耳を立ててしまった。



「ねぇ、あんたほんとにそれでいいの?」

「もう決めたことだ」

「私は別に、悠生が後悔しないならいいけどさぁ。でも、まだ時間あるんだし、もうちょっとじっくり考えてみたら?」

「………」

「っていうか、ケイにちゃんと話しなよ。そしたら、ケイだってわかってくれるよ、きっと」

「アユは俺の選択が間違ってるって言いたいのか?」

「だから、間違ってるとか間違ってないとかじゃなくてさぁ」


イラ立ったように頭を掻いたアユは、



「自分の選択が間違ってないと思うなら、どうしてそんな浮かない顔してんの? ほんとは迷ってるからじゃないの?」

「………」

「迷いがあれば、いつかはそれが後悔に繋がるよ。そうなってからじゃ、遅いんだよ? あとで後悔したって、誰の所為にもできないよ?」


アユは悠生に詰め寄った。

悠生は怒った顔で、「でももう決めたんだ」と強い口調で返した。


何の話?


思わず、飛び出して聞きたくなった。

でも、ケイはぐっと我慢する。



寂しさとか、悲しさとか、怒りとか、虚しさとか、嫉妬心とか。



色々な想いがぐるぐるまわる。

誰より悠生のことを知っていると自負しているケイだが、その心までは、まるでわからない。


悠生が何に迷い、そして何を決めたのか。


ねぇ、どうして私じゃなくてアユちゃんに言うの?

ケイは泣きそうになりながら、その場で膝を抱えた。