片言で話しかける天使。
『生憎、私に差し上げられるものなどありません。』
『イイヤ。』
ウィンディアはフォルクハルトを見る。
『オマエは2年後、大事なものが出来ル。うしないたくない、1番ガ。』
『それを差し出せということですか?』
『そんなカワイソウなことは言わナイ。』
そう言って手をフォルクハルトの頭上へ翳した。
『それを守れるだけの力を与えヨウ。その代わり、2年後に——』

「フォルクハルト」
その声で現実に引き戻された。
声のほうを見れば、不思議そうにこちらを見る女性。
中華風の装束を着ているその姿はひと目で踊り子だと想像つく。
事実、彼女は踊り子をして生計を立てている。
「どうしたの?」
若草色の双眸がじっと見ている。
「あぁ……雪蘭。」
フォルクハルトはにこりと微笑む。
「貴方こそ、ここへ来るのは久しいですね。旅から帰ったのですか?」
「そうよ。今朝、着いたから風読み屋に顔を出したら居ないんだもの。」
雪蘭と呼ばれた女性はベッドへ腰掛ける。
「具合でも悪いの?……もしかして」
そこで意地悪な顔をする。
「誘ってる?」
にかっと笑うとフォルクハルトの顔が紅潮する。
「な!!何を言っているのですか!!!!」
普段の静けさからは想像出来ないような大声で叫ぶ。
耳から首元まで真っ赤だ。
「ウブだねー、ふふふ!」
面白がるように無邪気に笑う雪蘭を見るとフォルクハルトはそれ以上怒る気力もわかなかった。
「でも、心配はしているよ?」
ごろんとフォルクハルトの膝の上に寝転ぶと顔を見上げた。
「君はがんばりすぎるから。」
そう言って両手を伸ばして顔を包む。
「肩の力を抜くのを忘れないで。」
優しく話す雪蘭にフォルクハルトは困ったような表情で頷いた。
「私は味方だよ。」
あまりに優しく微笑まれて顔を歪める。
「貴方こそどうしたのですか?そんな風に言うなんて。」
「珍しい?」
「何かを企んでるとしか考えられません。」
フォルクハルトは意地悪に笑う。
雪蘭はむぅと頬を膨らませる。
「久しぶりに会えて色々言いたくなったの!」
「ふふ、すみません。……ありがとう。雪蘭。」
細い指先が顔を包む暖かな手の上を滑る。
ひと回りほど大きな手が雪蘭の手の上に置かれる。
「さて。」
その手を掴み、雪蘭の手を顔から離すと手を掴んでベッドから降りる。
同時に雪蘭も起き上がり、手をつないで歩く。