どんなに美しく飾ったところで何の価値もない。
この行為に何の意味もない。
自分には得るべきものも失うものもない。
息をするだけ。
生きるだけ。
なぜ生きるかという疑問もない。
そんなことを考える意思がなかった。
ある朝、自分の身体に違和感を覚えた。
仕事仲間から勧められて医者へ行くと、妊娠しているというのだ。
信じられない。
そう言った。
嘘だ。
心当たりは山程ある。
誰の子かもわからない命を育てる気力も、余裕もない。
その後、どうしたかも覚えていない。
恐らくおろしたのだろう。
壊れかけていた。
生きる屍のようにふらふらと彷徨いていた。
2度も子供を殺した。
1度目だって、そうだ。
自分が殺したに等しい。
かわいそう。
そう思い、腹を撫でた。
かみさま。
もうにどと、この腹に生命をあたえないでください。
そう願った。
それなのに、神は残酷なものだ。
もう1度、生命を与えた。
今度は道端で会った数人の男だ。
下卑た笑みで、興味本位で身体に触れた男たち。
誰とも知らない者達だ。
3度目の子供。
彼女はその子を産んで捨てた。

それから暫くして、フォルクハルトは別の町へ行った。
そこでは質素な暮らしをしていた。
娼婦は辞め、花屋や雑貨店などの店員をした。
髪を切り、中性的な面立ちで優しげに笑む。
全て演技だ。
娼婦であった自分を忘れないように口紅は同じでありながら、その自分を否定するように和物の服装で中性的に思わせる口調でいた。
2度と男を愛する気もなく、かといって女を否定したわけではなかった。
転々と職場を移動しているうちに、踊り子をしている女と出会った。
その時は深く考えず、ただ夢を追っている姿が眩しかった。
彼女は決まって水辺で踊る。
踊りを踊ると水が舞い、一層引き立てる。
その姿を見たくて、いつしか彼女が現れる少し前からそこへ足を運ぶようになった。
笑いかける彼女の笑顔を見る度に、壊れてしまった心が少しづつ癒えていくように思えた。
関わるつもりはない。
所詮、このひとも仕事で演じているだけの役者に過ぎない。
自分と同じように。
そんなことを思って、否定した。
本心ではない。
癒えていくのが怖かった。
自分を守る壁が崩れていく気がして。
それなのに、彼女の踊りを見ている。
怖いなら逃げればいい。
警笛が鳴っている。
それなのに。
彼女は旅芸人らしい。