「誰だっていいでしょう!それより今は仕事優先です!」


硬い奴…と呟く先輩すらも睨む。
この会社の連中は、仕事もプライベートも一生懸命にする。いい風習だと思うけれど、どうにも虫の好かない時もある。

特に今みたいに、自分が話題の中心になるのは嫌だ。


「秘密もいいけど、とにかく長続きしてくれよ。でないとこいつら全員、嫁も貰えそうに無い雰囲気だからな」


嫌味のような言葉を吐いて課長が逃げる。

いかにもこっちに非があるような言い方はやめて欲しい。

長く付き合いを続けたくても、いつもフられているのはこっちの方なんだ。



…さっき受付で不用意に喋ってしまったことで、これまで以上に動きにくくなってしまった。

まだ気づかれてもいない河佐咲知との関係を長続きさせたいのは山々なのに、そんな願いすらも自由にできなくなってしまう。


(とにかく彼女との関係を誰にも気づかれないようにしないと。噂の対象が彼女だとバレてしまったら長く続けたい付き合いも続けられなくなる…)


我慢強そうに見えても神経は細い人だと思う。
受付なんて場所に立ってはいるけど、実際は事務の片隅でパソコン画面とにらめっこでもしてそうな感じの人だ。


(守ってやらないといけない。何よりも大切だから……)



『了解です』と返信メールを送り、息を吐いた。


河佐咲知の顔を浮かべながらする午後の業務は、いつも以上に長く感じた。