私は、アナタ…になりたいです…。



「僕を産んでくれた母は、出産後間もなく亡くなったんです。出血が多すぎた為の…ショック死だったと聞いてます」


だから本当は母の記憶は何も残っていません…と、田所さんは寂しそうに呟いた。


目を伏せて歩きだす背中が悲しそうだった。
少し黙り込んでいた彼が、息を一つだけ吐いて話し始めた。


「父は僕が2歳の頃に再婚しました。再婚相手の義母は僕を実子のように可愛がってくれて。お陰で僕は、大学に入る頃までこの事実を知らずに育ちました…」


大学に入る時、戸籍謄本を見て気がついた。それで父親に尋ねたら、後妻だ…と教えられたそうだ。


「驚いて、どうして実母が亡くなっていたことを内緒にしていたのかと父を責めました。父は義母が僕を育てやすい環境にしようと隠してたそうです。遠慮があっては家族として上手くいかなくなるから…と…」


悔しそうに声を詰まらせ、ぎゅっと手に力を入れた。
その時の心情が湧いてきたみたいで切なそうに見えた…。


「どんな人だったのか見てみたいと父に頼みました。父はたった一枚だけ残っていた母の写真を僕に預けてくれました…」


手を離すとスーツの上着の内ポケットから手帳を抜き取った。白い厚紙のようなものを取り出し、私の方に差しだした。



「母です」


差し向けられた写真を手に取り、立ち止まった。

街灯の明かりの下で見る田所さんのお母さんの姿は淡いピンク色のワンピースを着ていて、はにかんだ笑みを浮かべている。

目元と鼻が彼に似ている。お父さんらしき人も横に写っていて、2人の身長差は丁度私と田所さんくらいだった。