あの人の名前は、『田所 悠真(たどころ ゆうま)』

私『河佐 咲知(かわさ さち)』と同じ、平成22年度入社の人。



始まりは、入社式での決意表明の場だった。


『社訓に則り、社会人としての使命を果たしていく所存ですーー』


常套句を口にしながら、目はキラキラと光り輝いていた。
本当にやり遂げてしまいそうな雰囲気が彼にはあって、同じ社会人一年生とは思えなかった。


(スゴいなぁ……)

羨ましいくらいの意欲に感動したのは勿論、それだけじゃない。

見上げる様な身長に、スーツの肩幅がピッタリな体型。
胸板を少し反らして、如何にも格好よく伸びている背筋。
髪の毛は先が茶色がかっていて、ワックスか何かでサイドを少しだけ固め、サラサラしてそうな前髪は斜め左に寄せられて、長くてきれいな眉が髪の隙間から覗いていた。

目の形は少し切れ長っぽくて、二重の窪みがくっきりとしていて、眉間の辺りから既に筋の通った鼻は高くて、小鼻もシュッと締まっている。なのに、唇は肉厚で、男性なのに赤っぽい色をしているところがチャーミング。


式場の一番前の列で、彼の後ろ姿から見返り姿、正面までをジッと見れたのがラッキーなくらいの美形。

そんなイケメンを放っておく程、世の中は大人しいものじゃなく、式典が終わった後のホールのざわめきは、収まるどころか逆に増大していった。


あの人の周りには、新入社員の女子に限らず、女子社員の8割がたが集まっていた。