『ミニマム女子』だな…と、目の前に立つ女性のことを見つめながら思った。
「河佐咲知です」と名乗る女性は、僕に無い物ばかりを持っていた。


手足は細くて華奢で折れそうだった。
丸い顔を支える首も細すぎて、よく乗っかっているなと感心するほどだった。

目だけはメイクのせいか、とても大きく見えた。
鼻も唇も、顔の中心にキュッと寄せ集まった様な感じでプリティだった。


身長差のある僕とのペアに戸惑ってか、かなりテンパった調子で挨拶の練習をしていた。
マナー講師のおばさんは、そんな彼女のところに再々やって来ては難癖のような言葉を吐いていく。

一生懸命やってんだから多めに見れよ…なんて言葉は、聞きそうにないくらいの厳しい指導ぶりを見せていた。


「それくらいで…」と、見るに見かねて言いかけた。
喉元まで出かかった言葉を呑み込んだのは、向かい側で何を言われても耐え続けようとしている彼女の姿があったから。
ぐっ…と唇を噛み締めて、笑顔を絶やさないようにしている。

(我慢強い子だな……)という印象が深く心に残った。


その子が受付業務を担当することになったと聞いて、会社の人事は『間違ってない』と感心した。






「あの……」


黙っていた僕がジッと彼女を見ていたからだろうか、困った様な目線を向けて声を漏らした。


「な、何飲みますかって…その、この方が……」


左手を外側に向け、ぎこちない笑顔を見せる。僕の右側を示す彼女の指先に沿って視線をズラしてみた。