「何かした…?」と聞くには後ろめたさが多過ぎた。

彼女にあんな態度を取らせているのは自分だと気づいている。

本来なら自分から歩み寄って、彼女とコミュニケーションを図るべきだというのは分かっているが、なかなかそんな気にもならない。

無視みたいな状態が続き、悩んだ挙げ句に彼女が今みたいな態度を取り始めたんだ…というのは十分承知していた。



…人一倍、細やかな神経の持ち主だというのは知っていた。
その繊細さがあるから受付を任されたんだ…と、以前チーフの佐藤さんから聞かされたことがある。


「人の顔色や表情をよく見てるんだ。顧客に関しても覚えが早いし正確に物事を行おうとする。少しばかり早合点なところもあるけど、同年代の子には出来ない気遣いぶりで助かってるよ」


小さな体をちょこちょこと動かして頑張ってる。河佐咲知の働く姿は外部の営業マンからも好評だった。


「何年経ってもスレてない感じのところがイイですよね。あんな人が彼女だったら、浮気なんかできないだろうなぁ…」


女好きと噂されている営業先の男が言ってるのを聞いた。

(嘘つけ…)と胸の中でせせら笑って、そんなのに騙されなければいいが…と願った。


こういう事を言う男に限って、女の甘さにつけ込む術を知っている。優しさを振りまくだけ振りまいて、弄んで捨てる。
女が自分に自信がないのを知ってて、文句の一つでも言ったり怒鳴り返したりしてこないと踏んでいる。
都合よく付き合って、振り回すだけ振り回すに決まってるんだ。