貴女と貴方


入学式が始まるとあたりは静かになる。

校長先生の長い話の間、眠気と戦っている人を何人も見かける。

そして、1年生を歓迎するため先輩方が校歌を歌う。

吹奏楽部の合奏が終わると閉式の辞が読まれる。

その頃にはもう、皆起きていたが、1人なかなか起きないやつがいた。

新入生退場の号令がかかってもそいつは起きなかった。

仕方なく肩をぽんぽんと叩いてやると、慌てて席を立ち、退場していった。




式のあと、新入生は自分たちの教室に戻された。

大人しく自分の席に座って居ると前からだんだん近づいてくる男の子を見つけた。

私に近づいているんじゃないと思っていたが、そいつはどんどん私に近づいて来る。

そして、私の机の前で止まった。

そいつは、入学式の時最後まで起きなかったやつだった。

「さっきは起こしてくれて、ありがとう!」

満面の笑みでお礼を言われて、歯がゆくなった。

「別に。あんただけだよ。あんなに寝てたの。」

「えへへ。昨日あんまり寝れなかったんだよねー。」

「あ、そう。」

「うん!あっ!お礼に飴あげるよ!」

すると、ポケットから棒付きの飴を取り出した。

そして、私に手渡した。

「別にいいよ。そんなお礼されることなんてしてないし。」

「いいから!受け取ってよ。」

そう言うと私の机の上に乗せた。

そうなると、もらわないと逆にめんどくさくなりそうだったから、もらっておいた。

彼は、また満面の笑みを見して友達の所へかえって行った。


…なんなんだよ、あいつ。