誰が作ったのかもわからない、日が落ちて暗くなった森の獣道を歩く。森の中に響くのは私の足跡だけ。もしこれがホラー小説ならば、後ろから魑魅魍魎に襲われたり、見た事も無い怪物に囲まれたりするのだろう。
でも、現実はそんな突飛な事は起きない。魑魅魍魎も怪物も存在しない。
「高校デビューしても、モテる訳でもないし、友達も増える訳じゃないんだよ…」
私はそう独り言を呟く。そしてだんだん独り言じゃ収まらなくなって、叫んだ。
「誰だよ!『高校デビューしたら人生が180度変わる』的な噂流した奴!真っ赤な嘘じゃんか!くそっ!」
勢い余って、強く右腕を振り上げた。
「痛っ!」
ゴツっと鈍い音がして、痛みを感じた。そしてすぐに右腕を引っ込めた。
どうやら私が振り上げた右腕の先には、太い枝があったようだ。まさに前方不注意ならぬ上方不注意だ。
(一回冷静になろう。うん)
熱くなった自分を心の中で言い聞かせた。
ここらで紹介しよう。私は水ノ瀬 杏。私立鷹ノ宮高校の1年生で、高校デビューに夢を見てしまった、友達ゼロ、彼氏ゼロの馬鹿な女子高生だ。