でも、それは私の一方的な気持ちであって。

伊織は多分、私のこと好きじゃない…と思う。


こうやって甘く囁くのも、お菓子目当てだろうし。

ただ、からかっているだけかもしれない。


だから、勘違いしてしまいそうになる自分がすごく嫌なんだ。



「…ナナ?聞いてんのか」


暫く何も言わずに自分の世界に入っていた私の顔を、伊織が至近距離で覗き込んでくる。

だから近いってば!


私はこれ以上伊織に翻弄されたくなくて。


「わわ、判ったから放して!」


あっけなく、許諾してしまったのだ。



伊織は満足げに口元に弧を描くと、私を解放した。


「ん。じゃ、約束な!」


そう言って、教室へと去っていく伊織に内心安堵していると。


「…あ、おい!ついでに、破ったらどうなるか判ってんだろうな?」

伊織は途中、こちらに振り向き、見事に釘を刺していった。