暫く突っ立ったまま動かずにいると。


「こっち、来い」


伊織がクイッと顎を使って部屋に入るように促した。

その行為に少しばかり苛立ちを覚えたが、今のは流すとしよう。


実は、伊織の部屋に来るのは、結構久しぶりだったりする。


中学の頃はわりと頻繁に出入りしていたのに、高校に入ってからは、なんとなくそれは躊躇われた。

なんせ、伊織は私の好きな人だから。安易に入るのもどうかと考えたのだ。



久しぶりの伊織の部屋に、心拍数は速まるばかり。

私はこんなにも緊張しているというのに…。伊織はとても平然としている。

それが何だか腹立たしい。が、ここであからさまに動揺することはプライドが許さないので、あくまで平然と伊織からは少し距離のある場所に腰を下ろした。