ジー・フール


バイクに乗りエンジンをかけ、少し吹かしてから足をかける。
僕とは違うエンジン音が聞こえてきた。
バイクのライトが僕を照らす。
眩しくて目を細めた。
僕は足を地面に下ろし、ライト先に目をやる。

「よっ!」
男の声が聞こえた。
男はライトを消してバイクから下り、僕に近づいてくる。
何処かで聞いたことのある声だったが、声だけでは誰かと認識できなかった。
しかし、僕はすぐにわかった。
同僚の倉田直人である。
でも僕は倉田のことは何も知らない。
それもそのはず、僕が倉田の存在を最近になってやっと知ったのだから。

何故それまで知らなかったのかというと、まずひとつ上げるとすれば、僕は人に興味を示さない。
それに、僕はパートナーにしか用がないからだ。
しかし、そのパートナーを3日前に亡くした。
その代わりとして、新しく組むことになったのが倉田なのである。

「なんだ、もう帰るのか?」
倉田は少し腰を低くして僕を見る。

「えぇ…」
僕は答える。

倉田は不満そうに一息つくと、店に入っていった。
僕は振り返り倉田の背中を見る。
長身のわりには細身。
僕とは馬が合わなそうだ。
僕は再びバイクに足をかけ走りだした。