「何なんですか?彼は?」
「彼とは?」
時田は相変わらず背中を向けたまま聞き返す。
「綾瀬刀麻という男は?」
さっきより声のトーンが上がっていた。
「本社の有力者…と言えばいいかね?」
時田は振り返り林の顔を見る。
「要だよ」
「私は聞いていません」
前に乗り出したが、ガードマンに邪魔された。
「何よ。私は何もしないわ。こういう時くらい、ガードマン外してくれないかしら?」
時田が合図をすると、ガードマンは後ろに下がった。
「すまない。ここが安全だと確証できないからね」
「私のことも信用してないと…」
真剣な表情をしているが、感情的になってしまったあまりに手を強く握り締めていた。
「…信用してるよ。もちろん。昔からの付き合いだからね。だが…」
「わかりました。しかし、私は感情を混ぜたりしません」
「そうか、ならいいがね。で…話は?」
「例の件に、私は賛成できかねます」
「理由は?」
時田は椅子に座りながら聞く。
「……」
黙り込んだまま林は答えなかった。
一息吐いた後、時田は新しい煙草に火をつけて一服。
「わかった」



