3杯飲み、僕はちょうど後ろを通ったピンクのエプロンをした女性に会計を頼んだ。
黙って頷く女性は25くらいだろうか。
はじめてみる顔だった。
新人さんか。
女性の後をついていこうとしたら、男が振り返り僕に話し掛けてきた。
「もう上がるのかい?」
1人で飲むのが嫌なのか。
いや、さっきまで1人だったんだから違うか。
ただ話し相手が欲しいだけだろう。
暇潰し相手が。
「時間なんで」
僕はそう言って女性についていき会計を済ませた。
「冷たいやつだな。女にモテないぞ」
グラスを持ったまま男は僕の横に立っていた。
僕はそっちに視線を向ける。
右手で前髪を掻き上げながらまた微笑む。
この男の微笑みは好きではない。
むしろ嫌いの方に近い。
口は笑っているが、目は僕を睨んでいる。
僕は男に喧嘩を売った覚えなどない。
しかし、僕はこの男の目が気に食わなかった。
目を細め男を見る。
「何か」
僕は男に問う。
「いいや」
男は口元を少し上げて答える。
僕はそれから一度も振り返ることなく、店を出た。



