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彼女の部屋から出た時にはもう6時を少し過ぎた頃だった。
陽が昇り明るくなってきた。
僕は結局自分の部屋で眠ることなく、十分に睡眠をとらずに朝を迎えてしまった。
誰のせいでもない。
僕が選んだこと。
たまにはいいかなと思った。
ドアの前でツバキさんと別れ、部屋に戻った。
最上階だったツバキさんの部屋は、僕たちの部屋とは全然違っていた。
このホテルは階ごとに、値段なりの仕様がされているわけだ。
あの部屋から、僕とツバキさんの匂いとは違う男の匂いがした。
でも僕はそれに触れなかった。
知らなくてもいい話だから。
きっと彼女は独りが怖かったのだろう。
そこに僕がちょうど現れた。
ちょうどいい時間に、ちょうどいいところで、ちょうどいい男が、ロビーのソファーで煙草を吸っていたんだ。
彼女にとって僕はそんな存在。
だから僕はその悲しそうな瞳に少しだけ身を寄せたんだ。
僕も独りが嫌だったからだろう。
そんな気分だったんだろう。
いくらバリバリ仕事をこなしているキャリアウーマンと言われる女性でも、ホテルに金を使うとは思えない。



