ジー・フール


「やっぱり面白い」

「よく言われる」
僕は彼女に微笑んだ。

煙草の火を消した。
シュッと小さい音が聞こえる。
沈黙の空間にはうるさい音。

ツバキは立ち上がった。
ベットの横についているコンポに手を伸ばす。

流れてきたのはクラシックだった。
少しして僕は気が付いた。
この曲は、ここに来る前に車の中でラジオから流れた音楽。
僕が好きなメロディ。

「ツバキさん」

「何?」
彼女は再びベットに戻った。

「この曲知ってる?」

「知ってるわ」

「いい曲だなって思って」

「なんか珍しい」

「珍しい?」
僕は天井から目を落とし彼女に目を向けた。

「だって、全く今まで何にも興味を示さなかったじゃない?」

「そう?僕たち短い時間しか付き合ってないけど」

「だいたいわかるわ。私は貴方より生きてるもの」
彼女はそういうと僕に意味ありげに微笑んだ。

なんの根拠もない言葉だったけど、確かに僕より生きている。
僕より大人だ。
僕が思う大人は、自ら生きている人のことを示す。
生かされている人は子供だ。
だからいくら体だけが成長しても子供のまま。
僕もまた子供。