ジー・フール


3階に上がると、さっきまでの雑音が嘘のように静かだった。
カウンターには1組カップルが飲んでいた。
右手を見ると、ダーツをやっているグループが2組。

僕たちは一番奥のダーツボードを目指して歩いていく。
腰ぐらいの高さの黒く丸いテーブルには、椅子が2つ。
壁際を背に置いてあるソファーに彼女たちが腰掛けた。

「何か飲む?」
僕はソファーを前に言った。

とりあえずおまかせでカクテルを、と言われて僕は来た道を戻るようにカウンターに向かった。

「一番奥のテーブルにおまかせでカクテル3つ、それと適当にアルコールを2つに、水1つ」
僕はまだ若そうなタキシード姿の男性に注文した。

僕が振り返ってみたときには、すでにダーツをはじめていた。
丸いテーブルの椅子に腰掛ける。
倉田が最後の1本を慎重に狙いを定めて矢を投げた。
羽を生やしたトゲのある細い槍は綺麗に中心を捉えた。

ガッツポーズをしてハイタッチする。
次にスローイングラインに立ったのは冬樹だった。
彼は何も言葉を発することなく、軽く放った。

見事に3本ともBull`s eyeに刺さった。
倉田の時よりも歓声が上がる。
冬樹は薄らと笑みを浮かべたが、すぐに元に戻ってしまった。