ジー・フール




僕の意識はまだ暗闇の中だった。
だけど、身体は車の中で、シートベルトが少しきついくらいだ。
運転しているのは倉田で、助手席に僕が座っている。
後ろには冬樹龍彦と菊永が乗っている。
一応5人乗りか、小さいワゴン車に大人が4人乗っている。
男の割合が多いせいか、暑苦しく、男臭い。
菊永から女の香りを嗅げるほど、いい車ではなかった。

ラジオから流れてくる曲に耳を傾ける。
どこかで聞いたことのある音楽だったが、思い出せなかった。
ベートーベンか…それともモーツァルトか、バッハなのか。
僕は名前だけは知っているが、この偉大な音楽家がどんな音を奏でるのかまでは知らない。
緩やかな曲調だから、モーツァルトだろうと、ひとりで解決させた。

まだ朝も早いせいなのか、口を開いてるのは倉田だけで、車の中でひとりの声が響きわたっていた。
後ろの2人が話している様子は全く伺えなかった。
それどころか、冬樹はまだ変わらない外をずっと見ている。
菊永は僕の真後ろだったから、確認できなかったが、きっと寝ているだろう。
それとも冬樹と同様に外を見ているかもしれない。