人や動物を傷つけてはいけない。
街に一度だけ出かけた時に、そんな言葉を耳にした。
母が子に言っているようだった。
その子供は泥だらけで、きっと喧嘩でもしたのだろうと、僕は勝手に解釈した。
それは人だけ?
動物だけ?
虫は違うんだ。
人は皆凶器を持っている。
手という凶器だ。
その手で何度殺しただろうか。
それは悲しいと思わない?
じゃ、<死=悲しい>って言葉は自分の周りで起きた時でしか生じないこと?
親戚や飼っていたペットとか。
ニュースで流れる人の死。
当たり前に過ぎていく。
そして、いつか忘れる。
そんなことがあった、という情報さえ忘れてしまうほどに。
でも僕はこの右手で人を殺している。
それは虫を殺した時と同じように。
感触はないけど、目の前で墜ちていくのを僕は見つめている。
かわいそう、悲しいなど、一度も思ったことはない。
思ったら負けだ。
こっちがやられる。
少しでも同情していれば、僕はきっと今ごろ天国か、いや、地獄か。



