ジー・フール


「彼、入院先で息引き取ったらしい」
暗い口調だった。

それもそのはず。
明るいニュースでもない。
面白いニュースでもない。
僕にだってわかる。
わかるけど、どう反応していいのかわからなかった。
ふと思い出した。
自分のパートナーが亡くなった時、僕はどうしたんだろう。
泣いただろうか、いや、泣いてない。
悲しいニュースなのに、僕は涙ひとつ流せなかったんだ。
倉田、その他ここの従業員だって泣ける。
でも僕は何があっても泣かなかった。
違う、泣けなかったんだ。

人間という曖昧な死に。
ある宗教は言う。
人は何度でも生まれ変われる。
新しくまた。
死ぬんではない。
新しく生まれ変わるんだ。

人間の魂は輪廻する。
本当だろうか。
これだけは、自分が死んでみないとわからない。
でも、この世界には帰ってこられないから、誰にも教えられない。
それの繰り返し。

死ぬことも曖昧だけど、生きていることはもっと曖昧だ。

どうして車で引かれた野良犬を見て泣かないのだろう。
かわいそう、その一言で解決されてしまう。