ジー・フール


「林博士」

「どうかしたの?」
林楓は振り返り尋ねる。

「呼び出しです」
男は腰を低くして答えた。

「時田ね。わかったわ…もう少ししたら行くと言っといてちょうだい」
林は腕を組みながら言った。

男は軽く頭を下げて、歩いていく。

「雨か…」
林は小さく呟いた。
ガラス張りの壁に手を当てて、空を見上げる。
青々しかった空は一気に灰色に変わってしまった。
目線を下げ、自分の手を見つめた。
マニキュアをもう何年もしてない。
そして全体に目を移す。
そこに映る自分は女が終わった姿だった。

でももう涙もでない。
ゆっくり手を下ろし、深く息を吐く。
周りを見回すと、書類を見ながらそそくさと歩いている従業員たちがいる。
みんな何かに追われている表情。

「さっき聞いたんだが、7機とも撃ち落とされたらしいぜ」

「またかよ。全然ダメじゃないか…このまま一気に迫られたら終わりだよな」

耳から入ってくる従業員の話し声。
どうやらこちらの戦闘機はダメダメみたいね。
それ以前の問題だと思うけど。
優秀な人間しかいない向こうには勝ち目が全くないわ。