暗い暗い夜の空。
黒い黒い水の色。
走る音。靴の音。人の声。
逃げる僕がいる。
何処か行き先もないまま、夢中で走っている。
息は荒い。
足もだいぶ上がらなくなった。
何度も後ろを振り返っては、速度を上げる。
しかし、自分が思っているより変わっていない。

1人2人と次第に増えていく、黒いスーツ姿の男たち。
もしかしたら黒いスーツじゃないかもしれなかった。
だって夜だったから。
頼るのは月が照らす光だけ。
街灯などとっくに切れている。
街の人は何処へ。
ここにいるのは、僕と僕を追う者。
細かく言えば、烏に蛙、蠅。
虫と呼べるもの、人間と思われる生物以外はまだこの世で息をしているだろう。

しかし、いずれできなくなる。
もちろん僕も。
こんな状況なのに、冷静でいられる自分が怖い。
いや、もう冷静さは失ってしまったか。